男性にネイルを褒められると嬉しい。
いや、褒められなくとも、私の爪に着目されるだけで、コツコツ努力してきた『自分磨き』という投資に、やっと儲けが出たような、そんな気分になる。ああなんて私は単純な女だと思いつつ、口元は緩んでしまう。
いったい、女の爪を見ている男はどれくらいの割合いるのだろう。
ネイルは3週間に1回通っている。本当はキリよく月1回にしたいところだけど、1ヶ月放置しておくと爪が伸び過ぎて不恰好だから、これくらいのペースになってしまう。料金は6,000円〜10,000円。飲みの誘いを1回断れば、私の指先と気分をキラキラにできる。断らないけど。
女は大抵、合コンやデートなどの直前にネイルを予約する。伸びてダサい指先を見られたくないし、新しいネイルで気分を上げて挑みたい。勝負下着を履くのと同じである。ネイルを新調すると気合いが入る。いい女になったような錯覚が起きる。エストロゲンがドバドバ分泌される。
自己満足でやっている、という女性は多い。確かにスマホをいじりながらふと自分のネイルが視界に入り、嬉しくて「えへへ」となることはある。だがそれだけで満足できるわけがない。「女を磨く私」への承認欲求でうずうずしている。
しかし、ただ褒めればいいというものではない。女はなんとも面倒臭い生き物で、褒め方によっては機嫌を損ねる場合もある。
「そのネイル似合うね。斜めフレンチでしょ。指がすらっと見えて素敵だよ。」
「斜めフレンチ」なんて言葉は、『合コンでモテる10の方法』といった記事を読み漁っている男しか知らないはずである。これでは私のネイルよりも「ネイルに詳しくて女心分かってる俺」を主役にしようとしているのかと勘ぐってしまう。私を踏み台にするんじゃない。
「でもピンクの方がもっと女性らしくていいと思う。」
などと主張してくるパターンもある。これはネイルどうのこうのではなく、私のセンスそのものにダメ出しされている気分である。ネイルに気付いてもらえてテンションが上がったのに、すぐ落とされる。そろそろ女性らしいとピンクをイコールで結ぶのはやめてくれ。
なので、結局のところ「爪、綺麗だね。」くらいが丁度良いのである。さらに欲を出すと「(あんまり詳しくないけど目に止まったからつい綺麗だと言ってしまった、)」というような表情であると完璧だ。
さらにさらにでいうと、何回か会っている男の場合は「爪いつも綺麗にしてるよね」と言いながらさらっと手をとられ、爪先に触れられると即死である。ポイントは、いつも、である。会うたびに私の努力の結晶をしかとその目に焼き付けてくれていることに感激する。これをシラフで書いている自分がそろそろ心配になってきた。
ここまでありったけのネイル愛を語ってきたわけだが、ネイルは女の自己投資の一例に過ぎない。モデル愛用の化粧品、サロンのトリートメント、痩身エステ、ミンクのマツエク、ジュースクレンズ、エトセトラ、エトセトラ…
あたまのてっぺんから、つま先まで、なんなら内臓まで、女が金をかける対象は無限にある。
「肌、綺麗だよね。ゆでタマゴみたい。」
「髪、サラサラだね。さわってみたい。」
「足、引き締まってるね。カモシカみたい。」
その一言だけでワイン1本空けられる。うんちくも上機嫌で聞ける。
この記事を読んだ男性は、もしかすると今後デートするときに無意識にプレッシャーを感じるかもしれない。
まず手元を確認。…ネイルはしていない。
次に髪。…他の女より綺麗なのか俺には判断つかない。
となると…どこだ?この女はどこに金をかけている…!
とソワソワしだす。他愛もない会話の裏で、男1人で勝手に推理ゲームが始まる。時間が経つにつれ、次第に変な汗が額から流れはじめる。飲んでいるワインはまったく味がしない。
ーというようなことを考えてネイル中は過ごしています。両手はふさがっているからスマホさわれないし、無口なネイリストさんだと、施術中は妄想しているしかないんですよね。もちろん、ネイルに気付いてなくてもワインのうんちくは笑顔で聞きますよ。
そろそろネイル予約しなきゃ。